私が『魔王』と呼ばれて

おまえが『勇者』と呼ばれて、私が『魔王』と呼ばれて、どれほど経っただろう。
今も私を倒さんとやってくる戦士は絶えない。
その誰もが、おまえを目指しているよ。おまえを。おまえを超えることを。『勇者』と呼ばれることを。
そして落胆して帰っていく。『魔王』を、見つけることができずに。
もうおまえしか、『魔王』の顔を知らないんだ。ただの人間と同じ顔をしていることなんて、知らないんだ。

今でも思うことがある。
なぜおまえが『勇者』と呼ばれて、なぜ私が『魔王』と呼ばれたのか。
どうしてこうなったのだろう。きっかけはなんだったか。
私はもう忘れてしまったよ。

そうだ、先日、森で子供を拾ったよ。
最初はただの人間の子供だと思ったが、どうも、半分は魔物の血らしい。とてつもない力を備えているよ。
この子は『魔王』を、私を継ぐのだと言っている。
いいことなんて何もないと思うのだが、なかなかどうして、そういわれてしまうと嬉しいものだな。かわいらしい子だよ。
この子は本当に『魔王』となるかもしれない。私のような偽者でなく、本当の魔物の王に。
そうなったとき、我らが、――私たち人間が、この子と敵でなければいいと思う。

久しぶりに酒でも飲もう。
近い内に会いに行くよ。とっておきの酒を手土産に。
おまえにはもったいないかもしれないが。
なあ、酒の味のわからないわが友人よ。

(2012/5/28 再アップ)

2007/11/22

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